「高の原」駅周辺の万葉歌碑 その2

前のコラムで私の住まい近くの万葉歌碑を紹介しましたが、今回はその続き。
明後日は「いい夫婦の日」(11月22日)ですがピッタリの内容です。
愛情溢れる歌が歌碑のひとつに刻まれています。

任務のとき、他の人は馬に乗っているのにあまり高くない身分の自分の夫は
歩いて行くのを 案じた妻から夫への歌が三首。
そしてそれへの夫から妻への返歌です。

「つぎねふ山城路を  人夫(ひとづま)の 馬より行ゆくに、
己夫(おのづま)の陸路(かち)より行けば 見る毎に 哭(ね)のみし泣かゆ。
そこ思(も)ふに 心し痛し。  
たらちねの母がかたみと我が持てる真澄(まそみ)鏡に 蜻蛉領布(あきづひれ)
おひ並(な)め持ちて 馬買へ。我が夫(せ)」
  (万葉集 巻13 3314 作者不詳)
~山城へ通う路を  よその夫は馬で行くのに、
自分の夫が地面を歩いて行くので、 それを見る毎に 泣くばかりです。
そのことを思うと、心がつらくなって来る。 (そこで)
お母さんの身代わりとして私が大事に持っている澄み切った鏡に
蜻蛉の羽のように薄い領布(ひれ) 。この二品を一処に抵当にして、
(お金を借りて)そうして馬をお買いなさい。あなたよ。~ (折口信夫 訳)

「泉川 渡瀬(わたりせ)深み 我が背子(せこ)が  旅行き衣 裾濡れむかも」
     (万葉集 巻13 3315 )
~泉川は渡る瀬が深いので、いとしいお方の着物の裾が濡れるかも知れない~

「真澄鏡持たれど。我は効(しるし)なし。君が陸路(かち)よりなづみ行く、見れば」
     (万葉集  巻13 3316)
~澄みきった鏡は持っているけれど、私には、何の役にも立たぬ。
大事なお方が、地面を徒歩で、難渋しながら行かれるのを見ると。

返歌(夫から妻へ)
「馬買はば 妹陸路(かち)ならむ よしゑやし、石は踏むとも 吾(あ)は二人行かむ」
    (万葉集  巻13 3317)
~自分が馬を買うたら、自分だけはよいが、二人行く時には、いとしいお前が、
  地面をひろいで行くことになるだろう。ままよ。石の上を踏んで行っても
構わない。二人歩いて行こう。

夫を気遣う妻と、妻をおもいやる夫の気持ちは、万葉の時代から同じですね。

「高の原」という命名は、妻恋の鹿の歌からでしたし、
誰が選歌したのか? このような歌碑があるこの地域は、
夫婦の絆が強くなれる場所なのでしょうか?