正論よりも配慮

「正論よりも配慮が大切」

先日、一般社団法人がん哲学外来の理事長である樋野興夫先生のお話をお伺いした際に、先生がおっしゃっていた言葉である。

 

正論は、ときに相手の心に冷たく響くことがある。私も正論で人を傷つけ、傷ついたことを思い出す。

対等な関係であれば尚更、正しいことが分かっていることなら尚更、正論で相手を封じ込めてしまうのではなく、配慮で相手の心を掴む。

がん患者と接する時に限らず、私たちの日常のコミュニケーションでも心がけたいことだと思う。

 

治療の効果を評価する指標に、診断から5年経過後に生きている患者の比率を示す5年生存率がある。

「乳がんのステージⅡの5年生存率は92%です」

と、医師に言われたある乳がんの方が、

「5年生存率が92%と言われても、5年後に自分が生きているか死んでいるかのどちらかだから、私には50%としか思えない」

とおっしゃっていたことがある。

おそらくその方は、データという正論よりも、「5年後に元気でいられるように一緒にがんと向き合っていきましょう」というような言葉をかける配慮が欲しかったのではないだろうか。

 

また、自分の生き方を考えに考えた上で、治療の中断を決めたところ、

「治療をすればがんが縮小する可能性があるけど、治療しなければがんが治ることはない」

と即座に言われ、相手と話す気持ちが萎えたと、あるがん患者がおっしゃっていた。

なぜ治療を中断することにしたのか、まずはそこを聞いてみることが配慮だと思う。

 

正論よりも配慮。相手を思いやる気持ちがあれば、何も難しいことではないはず。

 

実は私も、樋野先生に日頃の思いを相談させてもらった。

「相談が終わり、がん患者さんが笑顔で帰って行かれた後、一人になった時に、がんに罹患したことがない私は、患者さんの痛みや辛さをちゃんと分かっていないんじゃないかと悶々としてしまうことがあります」と。

そんな私に、樋野先生が贈ってくださった言葉の処方箋は、

「あなたに愛があるのが、患者さんに伝わればいいんですよ」

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎 由華