在宅医療を選びますか?

がんに罹患し、たとえ治療が上手くいっていたとしても、自分の命に限りがあると意識するのが患者心理であり、生きる目標が具体的になる。

「彼と結婚して、同じお墓に入れるようにしたい」

「最後になるかもしれないから、家族で旅行に行きたい」

「自分が遺すお金が、夫ではなく、確実に子供の手元にいくようにしておきたい」

これまで受けた相談で実際に伺った声。同じようなお金の悩みから始まった相談でも、その悩みの裏側にある患者の想いはそれぞれであると同時に、それぞれの家族の形があるのが分かる。

 

それぞれとはいえ、できるならば住み慣れた自宅で、家族がいつも一緒にいる中で過ごしたい、という気持ちを全く持たないという人はいない。全く持たない人はいないが、大半の人が、気持ちは持つけれど、その気持ちと実際はベツモノだと言う。「宇宙旅行に行ってみたいと思う気持ちと同じ類の非現実的なこと。自分がどんな状況になるか分かっていないのに、家族の生活や負担を考えると望もうとは思わない」と、おっしゃった方もいる。

 

自宅でのがんの治療生活、つまり在宅医療を考える時の家族への負担の懸念は、精神面や肉体面だけでなく、経済面もあるという。どうも、入院よりもずっとお金が必要なイメージがあるようである。

 

在宅医療でかかるお金の考え方は、医療機関での医療費の支払いと同じである。

病院に入院や通院した時と同じように、健康保険でまかなえるもの(医師が訪問した診療費、薬代、検査代など)が基本となり、決められた上限額以上は支払うことはない(高額療養費制度)。そこに特別な医療材料や、医師や看護師の交通費など健康保険でまかなえないものを実費で支払う。

また、40歳以上であれば介護保険のサービスを受けられるケースがあり、その費用は別途で必要となるものの、医療費と介護費を合算して計算し、一定額以上の支払いは申請によって戻ってくる制度もある(高額医療・高額介護合算制度)。

 

つまり、制度によって、かかるお金に上限額が設定されている点は安心できる。

在宅の方が入院よりもお金がかかるというのは、制度を超え、かけるお金がいくらでも考えられるからではないだろうか。入院であれば、個室を選択した際の差額ベッド代くらいがかけるお金であろうが、在宅であれば、少しでも快適にと自宅を改装するための費用は際限なくかけることができる。

かかるお金なのか、かけるお金なのか、この違いを整理してみると、在宅医療に必要になるお金も分かりやすいのではないだろうかと思う。

 

在宅医療、そこにお金をかけることが最善であるとも限らないし、家族愛が在宅医療であるとも限らない。それぞれの家族の形があり、それぞれの考えや生き方がある。どんな形であろうと、「信頼」と「コミュニケーション」で繋がっていることが大切なんだということは、これまでたくさんの相談で見てきた。

「信頼」と「コミュニケーション」、そこに「連携」を加え、これからも患者の生きる目標や患者や家族の想いを支えられる相談の場を作っていきたい。

 

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華

 

 

 

※今後70歳以上の方が支払う医療費の上限額、そして医療費と介護費を合算した場合に負担する上限額、ともにアップすることが決まっています

参考:厚生労働省ホームページ→高額療養費制度の見直しについて(概要)