がんライフアドバイザー®の役割

がんになると感じる痛み(苦痛)の種類が4つあると言われている。

 

1つ目は、「身体的」なもの。治療の副作用によるしんどさ、がんによる痛みなどが挙げられる。

2つ目は「心理的」なもの。がん治療への不安や恐れ、やりきれない苛立ちなどが挙げられる。がん患者の約半数に、何らかの精神症状がみられるとされている。

3つ目は「スピリチュアル(霊的)」なもので、人生の意味や死への恐れといった死生観に対する悩みなどが、これにあたると言われている。

そして4つ目が「社会的」なもの。経済的なことや仕事上の問題、家族内の揉め事など日常生活を送る上での悩みが挙げられる。

 

がんを告知された時、治療を始める時、命の限りを感じた時などどんな時も、がんと向き合いながら暮らしていくにあたり、この4つの痛みのどれを感じていても、生活の質(QOL)が良いものであるとは言えない。

 

私のところには、何らかの社会的な痛みを感じて相談に来られる。

「お金がないから、これ以上の治療はしたくない」とおっしゃるので、相談に応じてほしいと医療機関から依頼があった。手術を終えた乳がんの女性の話を聞いてみると、「お金がない」は貯蓄がないわけではなく、がん治療のために使うつもりのお金がないという意味であった。

「貯蓄は家族のお金なので、子供の大学進学もありますし、今、私の治療のために使うのは家族に申し訳ないですから」

このように思うのは、家計を管理している女性に多い。特に術後に行う再発や転移を防ぐための治療が、治療より予防という意識となると、自分に使うお金を渋ってしまう。

 

これからかかるお金の見通しを具体的に立てていくのだが、たいてい患者は、医師から説明を受けても全てを正確に覚えきれていない。この場合、あやふやな情報で今後の見通しを立てても意味がない。だから、医療スタッフの方に同席していただき、電子カルテで今後予定している治療を確認しながら相談を行うことは、とても重要なことだと思う。

 

これからかかる治療費が具体的に分かれば、安心される方が多い。この女性患者も、この金額なら自身のパート代と医療保険から出る保険金でほとんど賄えそうで、それほど貯蓄を切り崩すこともないと分かり、術後の治療を受けることを決められた。

 

話をしているうちに、不安そうな後ろ向きの言葉ではなく、これからの自分のため、家族のためにといった前向きの言葉が多くなる。そんな言葉に、私自身の生き方を考えさせられる。

 

身体的な痛みや心理的な痛みを治療するのと同じように、医療スタッフががん患者の社会的な痛みも聞きとり、解消に繋げることが求められる。そのためには、医療スタッフにも社会的な痛みに応えられるある程度の知識が必要である。相談内容によっては、それぞれの専門家に繋ぐことも必要になる場合もあるだろう。その役割をする医療スタッフが、がんライフアドバイザー®である。

がんと向き合うには、お金の問題もがん患者にとって大切な一つの治療である。

 

『お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和の治療の一貫』

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華