想いを繋ぐ

お盆が過ぎ、私が大好きだった祖父の命日が近づいてきた。祖父が亡くなって16年が経つが、今も祖父の葬儀の合間に見た、吸い込まれるように高くて青い空の映像は思い出すことができる。

 

祖父は、夜遅くに心室細動で突然倒れ、そのまま亡くなった。そのため、私たち家族は死を受け入れる心の準備もできないまま、祖父のいない生活を始めることとなった。

最後に言葉も交わせず、祖父の想いは分からないけど、教養を積むことの大切さと、最期の最期まで患者さんと向き合う姿勢を、祖父は私に教え遺してくれたように思っている。

 

がん患者の相談で、自身の万一を想定して、話をされる方も少なくない。医師から余命を言われたわけでもなく、治療は上手くいっていたとしても、いつか来るだろう自分で命の終わりを意識させてしまうのが、がんという病気なのかもしれない。

 

まだ学生の子供のこと、介護が必要な親のこと、自分が切り盛りしてきた仕事のこと、お世話になった人のこと、飼っているペットのこと、大切にしてきた家や物のこと、それぞれに遺したい想いがある。その想いを繋いでいくために、私が相談の中でできるアドバイスもあると思っている。

 

手元にまとまったお金がないけれど、家族にお金を遺したいとなった時、健康状態が良好な方であれば、死亡保険を活用することが真っ先に挙げられる。しかし、がん治療中の方にとっては、新たに死亡保険に加入することは不可能ではないものの、支払う保険料と受け取る保険金を考えると、決して得策とは言えない。

 

そこで、これまで保険料を納めてきた公的年金保険でお金を遺すことを検討することがある。

これまでに受けた相談でも、抗がん剤治療による副作用がひどく外出も困難な状態が続いている患者や、人工肛門をつけている患者が、自分が使うお金ではなく家族に遺すお金のために、障害年金の請求をし、ある程度まとまったお金を受け取ることができた。

 

障害年金については、障害認定を受けられるにも関わらず請求していなかった場合、後から請求する際の時効はない。患者本人が請求できるだけでなく、未支給年金として遺された家族が請求することもできる。また、障害年金を請求していたことで、要件を満たせば遺族厚生年金の受給に繋がるケースもある。(障害年金の請求、支給の時効の詳細については、日本年金機構のホームページ等でご確認ください)

 

治すことを目指して治療を続けている中で、遺すことを考えるなんて気持ちのコントロールが難しいと思われる。だからこそ一人一人のタイミングに合わせることを第一に、制度も上手く利用しながら、想いを繋ぐ支援が大切である。

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華