たかが注射1本

「お金がかかるからって薬を拒否される患者さんがいるんですけど、どうお話したらいいでしょうかね」

先日、ある医師からこう尋ねられた。

 

よくお話を伺ってみると、その方は女性がんを患われ、抗がん剤治療中であるが、骨髄抑制が強く出て、発熱性好中球減少症(抗がん剤の副作用で好中球(白血球の一種)が少なくなり、そのために発熱している症状)を起こしているとのこと。

この状況は患者さんにとってもしんどい状況でもあるし、この状況が長く続けば、次の抗がん剤治療を予定通りに行うことができない。

医師は、発熱性好中球減少症を改善させる効果的な注射をその女性に勧めたところ「経済的に余裕がないから高い薬は使わずに我慢するから」とおっしゃったそう。しかし医師としては治療法があるのにと、もどかしい思いをしているという。

 

医師に使っている抗がん剤をお聞きすると、新しいタイプの抗がん剤であり、薬価も高い。その治療法だと1ヶ月にかかる薬剤費だけでも、よほどの高年収の方でない限り、高額療養費制度が利用できると推測できた。

 

「その注射を打ったとしても、患者さんの負担額は変わらない可能性が高いと思われます。患者さんは、高額療養費制度をあまりご理解されていないのかもしれません。一度、院内の相談支援センターにいらっしゃるがんライフアドバイザーにご相談に行かれるようにお話いただくことはできますか?」

 

そんな風にお話し、その場は終わった。先生から、すぐにがんライフアドバイザーの方にお声かけくださり、院内連携を取られたようであった。

その後談をお聞きできていないが、おそらくその方のお金の不安は解消できたと思われる。

 

今回の話のきっかけになった注射1本は、がんそのものを治すわけではなく、抗がん剤の副作用に対しての改善薬にあるにも関わらず、薬価で10万円以上もする。がん治療薬の中には4mLの小瓶が40万円以上するものもある。

 

薬を販売する製薬会社の方には、1本売れたというところしか見えないと思う。たかが注射1本だと思うかもしれない。効果が大きい薬は当然のように処方されるものだと思うかもしれない。

 

しかし、注射1本が売れた裏側には、今回のように患者の不安や、医師とがんライフアドバイザーの連携、お金の相談があって、処方に至っていることもあり、どんな処方にも患者のお金や暮らしがあることに目を向けてもらいたいと、元製薬会社社員の私は、自分の反省と共にそう思う。

 

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎 由華