誤解だらけの医療費控除

年末から、医療費控除についての相談が入るようになりました。
「確定申告したらお金が返ってくるんですよね」「医療費は10万円以上払ってます」
がんと診断され、治療を続けてこられたがん患者さんは、これまでたくさん支払ってきた医療費が少しでも返ってこないかと、周りの方の助言やうろ覚えの記憶で、医療費控除のようなことをお話されます。

「それは医療費控除のことですね」
私が医療費控除の制度の説明をさせてもらうと、大半の方ががっかりされます。
というのも、医療費控除の手続きをしても、自身が支払った医療費が戻ってくるわけではないので、期待していたようにお金が返ってくるわけではないからです。

乳がんで治療中のAさんは、手術で入院、その後かれこれ半年以上、分子標的治療薬での治療を通院で受けているところでした。治療費は高く、これまでに50万円以上は支払ってきたとか。しかし、お話を伺ってみると、医療保険に加入をしていて、手術給付金は受け取り、入院や通院時にも給付金を受け取れるとのこと。手術での入院時、通院時のそれぞれの医療費から受け取った給付金を差し引けば、医療費控除で申告する金額は僅かとなります。
「50万円くらい戻ってくるのかと思ったけど、確かに保険金受け取ってますからね。世の中そんなに甘くないか」なんて笑っていらっしゃいました。

また、大腸がんで治療中のBさんは、治療費も嵩んできて、貯蓄を切り崩しての生活をされ、とにかく貰えるお金や使える制度があればと調べたところ、医療費控除を知ったとのこと。しかし、Bさんは長期休職中で税金がかかる収入はありません。税金を納めていないのであれば、医療費控除の手続きは無用です。
「「お金が返ってくる」というのは、支払った医療費が戻ってくるんじゃなくて「支払った税金が還付される」っていうことか、それでは諦めます」と、がっかりされておられました。

がんの治療を受け、たくさんの医療費を支払ってきているわりには、医療費控除で還付される金額は少ないと感じる方がほとんどで、面倒な作業だと思われるかもしれませんね。

実は、医療費控除は確定申告の時にかかわらず、年中いつでも受け付けてくれます。しんどい時に慌ててする必要はないので、自分の治療経過を振り返るツールとして、体調のいい時に整理をされても良いと思います。また、今年(平成29年度)の手続きから領収書の添付が不要となったので、少し手間が楽になるのではないでしょうか。

あと、相談時にお話すると患者さんの反応が大きい情報がもう1つ。
患者さんが対象外と思いがちな保険適用外の抗がん剤費用、セカンドオピニオン診察料、人工膀胱や人工肛門の装具費用、ドラッグストアなどで買った市販の医薬品、付き添いの方の入院時や通院時の電車代やバス代、タクシー代といった交通費も医療費控除の対象になっています。抜かりないようにされてくださいね。

がんライフアドバイザー® 川崎 由華
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医療費控除とは
その年の1月1日から12月31日までの間に、その世帯で支払った医療費の合計が、所得が200万円以上の方は10万円、200万円未満の方は所得の5%を超えた場合、超えた額が医療費控除の対象となり、一定の金額の所得控除を受ける制度です。所得控除を受けることができれば、所得税や住民税が還付や軽減できます。