遺伝子が相手

息子の服選び。
緑色が好きで細身の息子が通学用に良いと思って買ったのに、動きにくい、緑でもこの緑は嫌だ、この柄は恥ずかしい、生地が肌に合わない、首が絞めつけられる感じがする…息子の好みや体型にピッタリ合う服選びは難しく、無駄にしてしまったお金や服のことはいかほどになるやら。
それならば息子本人と一緒に買い物に行けばいいんだけれど息子は拒否。だから息子にたくさん質問をして好みや体型を知り尽くし、私は息子の服を買いに出かけています。

息子の服の話で例えてみました(少し無理がある…)が、がんの治療も、患者さんのがんの原因を調べ尽くし、その人にピッタリ合う治療法を選ぶようになりつつあります。
最近の話題になっている「がんゲノム医療」というのは、一人一人のがんの原因になっている遺伝子を調べて、患者さんごとに最も合った治療法を選ぶ医療です。

少し前までのがん医療は、再発の大腸がんだからこの薬、肺がんのこの病理型だからこの薬といった感じに、がんの種類や病理型で治療法が決められていました。それでも臨床試験を重ね、有効性や安全性が確認できた上での治療だったのですが、個々に合わせたものではなく、まずはやってみて効果があるかどうかを試すのが主流でした。

だから「効果があるかも分からない、副作用で最後まで飲み切れるかも分からない抗がん剤に、高いお金を支払わなきゃいけないなんて」と、院外薬局でついお金の愚痴を漏らしてしまう患者さんもいました。
実際に副作用が強く出てしまい、途中で減薬、そして休薬となった患者さんも何人も見てきました。自分が使える治療薬の選択肢が1つ減ってしまった精神的なダメージは本当に大きなものです。

これから国として取り組んでいく「がんゲノム医療」は、より効果は高く、より副作用が少なくなることが期待されています。これまでのようながん患者さんのお金の愚痴も、精神的ダメージも、それに無駄になる薬もお金も大幅に減らすことができることに繋がるでしょう。

どんながんに対しても、遺伝子検査から治療まで全て公的医療保険が使える日がくることが望む一方で、遺伝子が相手で、患者さんの顔と向き合うのではない医療が進んでいくことに、少し寂しさや抵抗感も持ってしまう私です。

がんライフアドバイザー® 川崎 由華