日曜日の夜に放送されているドラマ「ブラックペアン」。
主演は嵐の二宮くん。
外科医の役で「片っ端から、救ってやるよ」と、言葉だけ聞けばカッコよすぎる台詞で、どんな難しい手術でも、患者さんの命をあっという間に救っていくという、医療ドラマです。
が、その中には医療の現場に不信感や誤解を与えるようなシーンがいくつも出てきているように思い、私はガッカリしながら観ています。
私自身、製薬会社で勤務していたことがあるので、実際の現場と大きくかけ離れていると分かるところは、元フジテレビアナウンサーのカトパンさんが演じている治験コーディネーター。
治験を受ける患者さんに対し「早急にご入用だと思われましたので」なんて言って、治験コーディネーターが300万円をポンとお渡ししているシーンがありました。
あれを見たら「治験を受けたらお金がもらえるのか」「お金がかからずに受けられるなら、主治医が言う治療じゃなくて治験を受けたい」と思う方もいるのではないでしょうか。
そもそも「治験」とは、新しい薬が国(厚生労働省)の承認を得るために、安全性や有効性を確認するために行う臨床試験のことを言います。
私たちが3割(1割もしくは2割の方もいますが)負担で飲んだり打ったりしている薬は、全てこの治験を経て、厚生労働省で審査を受けて承認を受けたものになります。
逆に言えば、薬は治験をしなければ国に認められる土俵にも上がらないし、治験をしても結果が良くなければ、国が安全性と有効性を認めた薬には値しないのです。
だから治験はとても慎重に行われます。
主治医は誰にでも治験を勧めるのではありません。
薬事法という法律や治験の規則に基づいて行われ、条件を満たして治験を受けられる患者さんに対して、医師として医療機関としてどんな風に説明をしたらいいのか、院内の書類も口頭説明方法も厳しくチェックが入ります。
その専門職が治験コーディネーターで、医療機関で医師と患者さんを様々な面からサポートする役割です。
あんなカトパンさんのように振る舞う治験コーディネーターはいません。
治験コーディネーターを認定している一般社団法人日本臨床薬理学会は、TV局に対し「描写された治験コーディネーターの姿は、現在、患者さんのために、医療の発展のために真摯に努力しているCRCの心を折り、侮辱するものであったと感じます」という抗議文を送ったようです。(CRC:Crinical Research Coordinator)
ドラマの中で出てきていたお金についてですが、治験を依頼している製薬会社が負担してくれるので、患者さんには治験薬や必要な検査の費用はかかりません。
また聞くところによると、交通費や雑費、仕事を休んだ収入の補填になればと、その治療の1回の通院につき7,000円~10,000円、入院は1泊10,000円~20,000円の負担軽減費がその都度出るとのこと。
そう考えると、患者さんによってはお金の面でプラスになることもあるかもしれませんが、ドラマのように大金を渡したり、お金で治験への参加を誘導することは決してありません。
先日も治験に参加したいとおっしゃったがん患者さんがいました。
3種類目の抗がん剤も副作用が強く出てしまって休薬せざるを得ず、治る可能性が1%でもあるのならその可能性に掛けてみたいと、治験を希望されていました。
でも、面談や検査の結果、残念ながら治験の条件には合わず。
その方がおっしゃった言葉は「自分が良くなるだけじゃなくて、治験ってこれからの患者さんの役に立てるというのもいいなと思ったんですけどね」と。
治験はお金で動くものではない。
医療者や製薬会社、そして患者さんの大きな期待を背負って慎重に行われているものだということを、皆さんに知ってもらいたいと思います。