薬にもパンフレットはあるんです

私が昔、キリンビール株式会社の医薬部門で働いていた経歴を話すと、ほとんどの方はキリンビールが薬を作っている会社だったことに驚かれます。更に、どのがんの治療にも関連する薬だと言うと、もっと驚かれます。

どうしてそんなに認知度が低いのか。
それは広告の規制が関係していると思われます。

医師が処方する薬(医療用医薬品)に関して、厚生労働省は製薬会社等に対し、一般の場での広告を禁止しています。広告の捉え方により、一般の方が自分の病気への治療への誤解や、薬の使い方を誤るなどのトラブルを避けるためです。
最近、禁煙外来や肝炎治療など、病院を受診して病気を治療しようと問いかけるテレビCMもありますが、決して薬の名前は出てこないことに、お気づきだったのでしょうか。
テレビや雑誌で見かける薬のCMは、一般の方が自分で購入して使用することができる一般用医薬品だけですね。

キリンビールが製造販売していたのは、医療用医薬品だけで一般用医薬品はなかったため、一般の方の目に留まるような広告はしていません。ビールの広告はどこに行っても目にするけれど。だから全く薬を作っているなんて、思いもよらないでしょうね。

おそらく、キリンビールの薬を使っている患者さんも、その薬の製造販売がキリンビールだということに気づいていないかもしれません。患者さんは、その薬がパッケージされていた箱も目にしないだろうし、医師から薬のチラシやパンフレットを貰うこともないでしょうから。
(現在の製造販売はキリンビール株式会社ではなく協和発酵キリン株式会社となっています)

がん患者さんが薬の値段を全く想像もできず、治療前にこれからかかるお金に漠然とした不安を抱えてしまうのは、医療者を介さないと薬の情報が得られにくい現状にも原因があるのではと私は思っていました。

しかしこの春から、医療学会の学術集会においては、参加する一般の方も、製薬会社が作成した医療者向けのがん治療薬など医療用医薬品のパンフレットを受け取れるように規制が変わりました。患者さんやその支援者の方からの、がん治療を自ら勉強して正しい知識を得たいという声が認められた結果です。

医療用医薬品のパンフレットには、販売開始時期、使用方法や使用する時の注意点、販売されるまでに至った治験のデータや、販売後に行った臨床試験のデータによるその薬の効果や副作用などが記載されています。
「新しい薬です」と主治医は言っていたけど一体いつから使われている薬なのか、自分が出る副作用はどのくらい割合の方に出ているものなのかなど、気になっていたことを確認することができるでしょう。

ただ、基本的に手に渡るパンフレットには薬の値段は記載されていません。しかし実は、薬の値段は一般の方にも公開されているので、薬の名前からインターネットで調べることができます。
記載されている値段が、あまりの高額に驚かれるかもしれません。しかしそれは薬価そのものであり、実際に私たち支払う金額はその3割(1割や2割の方もいますが)ですので、お間違いのないよう。
また、2年に1度、値段の見直しがなされているので最新情報を見てくださいね。

がんライフアドバイザー® 川崎由華