彼女が最期に遺した想い

相談に来られるがん患者の中には、主治医の先生と話した上で、これ以上積極的な治療を受けないと自身で決められ、痛みなどの症状を緩和する治療だけにしている方もいる。

それは、決してがんという病に対して向き合うことを諦めたわけではない。がんと共に生きる中で、がん治療を優先するのではなく、自分のやりたいことを全うするために体に負荷がかからない治療を優先する、という選択。「自分らしく生きる」ということは、こうやって治療の選択をできることでもある。

「母親にはこれまで辛い思いをさせ、老後のお金を切り崩させてしまうほど経済的にも助けてもらった。自分に残された時間を、そんな母親のためにできることをしたい」そうおっしゃった独身女性の患者。

家族に遺すお金と言えば、真っ先に生命保険が頭に浮かぶだろうが、今の彼女が生命保険に加入することはできない。

そして、死亡により発生する年金、遺族年金。遺族年金は、その人によって経済的に支えられていた遺族に対して出るものであり、それぞれ別生計を立てていたこの母娘の場合、彼女が亡くなっても母親に遺族年金は出ない。

そこで、彼女が動き出したのは、障害年金の申請。

障害年金は、これまでのように労働できないとか、日常生活に支障が出ているなど、認定の基準を満たす状態であれば、がん患者でも受給できる可能性がある。特に彼女の場合は、障害基礎年金に加え障害厚生年金も受給できる条件を満たしていたし、1年以上前から受給できた可能性があり、もし認められたら一度に100万円を超える額が受取れるかもしれなかった。

相談を受けた医療者も私も、彼女の思いを支えたい、そして彼女の母親に彼女の思いを繋ぎたいと、障害年金の申請に向けサポートをした。彼女の体調も不安定だったから、タイムリーにサポートすることが求められた。

年金事務所や医療機関に書類を貰いに行くのも、書類を書くのも、体力的に辛い日もあっただろうが、彼女は社会保険労務士に依頼することなく、自分で全ての書類を準備し提出した。

彼女は、障害年金の受給が決まった通知を受け取り、亡くなった。お金が振り込まれたのは彼女が亡くなった後のこと。

彼女の家族にはお会いしていないが、彼女が最期に遺した想いを、きっと受け取ってくださったことと思う。私は彼女から教わったこと、気づかされたことがたくさんある。

自分の人生、最期の時間の過ごし方も、遺すものも想いもそれぞれ。あなたなら、何を望みますか?

 

%e3%81%8c%e3%82%93%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%95%e3%82%a2%e3%83%89%e3%83%90%e3%82%a4%e3%82%b6%e3%83%bc%e7%a9%ba

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華