余ってしまう薬

パックに入った握り寿司についていた醤油、お弁当についていたドレッシングやソースを使い切らなかった時、どうするだろうか?

私はもったいないと思いながらも、蓋をしてその場でゴミとして捨てる。残しておいても、残りをいつ使うか分からず、いつか使う時には衛生的に問題がある気がするからである。

 

実は医療機関において、例えば点滴に使う薬も、この醤油と同じようなことが起こっている。

 

点滴を受ける時、患者の立場から見ると、プラスティックの容器やビニールの袋に入った液体が何分か何時間かかけて自分の体内に入っていき、最後は容器が空っぽになる。空っぽになれば、薬は全て投与されたということになる。醤油のような余りはないではないかと思うだろう。

 

薬の余りは、患者一人一人に合わせて、必要な薬が必要な量だけを容器に注入する、その準備段階に起こる。

 

例えば、オプジーボ®という肺がんや胃がんの一部の患者に処方される薬は、添付文書を見ると体重1kgに対し3mgを投与すると決められている。つまり体重45kgの患者であれば135mg、体重60kgの患者であれば180mgが決められた投与量となる。

しかしオプジーボ®は、20mgと100mgの2種類の容量の瓶(バイアル)しか販売されていない。よって、135mg必要な体重45kgの患者に対しては、100mgを1本と20mgを2本使い、5mgを余らせるということになる。私のお寿司の醤油のように。

 

その5mgは、原則として廃棄となる。たった5mgと思うかもしれないが、オプジーボの場合、金額にしたら18,775円。2週に1度の投与で1年間続けば、この患者1人のために廃棄する薬の金額は488,150円にもなる。患者負担を3割としたら、無駄に146,445円も支払っていると思うと、患者もやりきれない思いになるのではないか。(実際は高額療養費制度により、患者にその負担が生じているわけではない)

 

抗がん剤の値段が高額となっている今、薬が余ることによる医療費の無駄を削減できないかと、厚生労働省が動き出した。安全性の確保、実際に廃棄率が減るかどうか、医療過誤が増えないかどうか、製薬企業が無駄の出ない単位で販売できないかどうかなど、これから検討していくという。

 

薬の使う量は、製薬会社が臨床試験を行って安全で有効な量を設定し、その用法用量に従わなければならない。醤油に例えてしまったが、薬には、消費する者が量や使い方を意識をして取り組んでいく食品ロスとは違う複雑さや難しさがある。

 

相談に来られた患者に話を聞いてみると、余る薬と言えば、副作用が出てしまい途中で治療を中断したために飲みきれなかった抗がん剤が何万円分かあるとのこと。貰いすぎで余らせてしまう薬とは訳が違う。限られたお金の中で治療の選択をしている患者にとって、中断せざるを得なくなった抗がん剤に悔しい思いだろう。

 

病院ではなく薬局で、お金の不安や不満を話す患者も少なくないというのも、分からなくない。治療薬を把握している薬剤師の方が、お金のアドバイスである「お金の処方箋」を出してくれることで、次の治療に前向きになれる患者が増えるのではないだろうか。そう思い、私は薬剤師の方に対してもがんライフアドバイザー®の仲間づくりをしている。

 

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華