毎日飲む薬の名前が覚えられない。どうしてこんな覚えにくい名前がついているんだろう。
そんなことを思う人もいるのではないだろうか。私もそう思う一人である。
私はFPの資格を取得する前、医薬品メーカーに勤務していた。そこでは、抗がん剤によって白血球が少なくなって発熱してきた時や、造血幹細胞移植をする時に、白血球を増やす効果のある薬を扱っていた。
自社の薬に関連し、抗がん剤の種類や同時に起こる副作用を緩和させる薬のことも知っておかねばならず、薬の作用を覚えるよりも、名前を覚えることに苦労した。その経歴や経験が今のがんライフアドバイザー®の私に活きている。
薬の名前には、一般名と商品名の2種類がある。
例えば、名前も覚えやすくて、昔からよく知られている「ガスター®」という胃腸薬。
ガスター®はメーカーがつけた商品名であり、一般名はファモチジンという。一般名は薬効成分の物質そのものを指すので、薬学に強い人以外には全く聞きなれないと感じる名前であろう。
しかし、商品名はメーカーが自由につけられる。メーカーとしては医師に覚えてもらい、処方箋に書いてもらうことで、売り上げに繋げたい。だからこそ、医師に身近な単語を使ったり、文字数を少なくしたり、命名には工夫している。製薬業界では、名前の語尾が「ン」である薬は売れるというジンクスがあり、「ン」で終わる商品名の薬が多いと聞いたこともある。
ガスター®は、消化器のというgastricと、潰瘍というulcer単語を合わせ、gasterとネーミングされているらしい。ガスター®(正式にはガスター10)はドラッグストアでも販売され、テレビCMも流れるので覚えられる。
しかし医師が処方するだけの薬はテレビCMもない。医学用語の英単語になじみがなければ、理由を聞いても覚えることは難しいと思う。
一方で、ジェネリック医薬品は商品名の命名に決まりがあり、一般名+財形+規格(含量)+「屋号」とつけることが決められている。よってガスター®のジェネリック医薬品は50種類以上発売されているが、どれもファモチジンから始まる名前となっている。
相談の中で、抗がん剤治療をしているがん患者に抗がん剤の名前を尋ねても、名前までは分からないと答える方が多い。患者にとって大事なことは、副作用の出方だったり、次に通院する予定日であり、薬の名前ではないのだろう。
とはいえ、処方されている薬の名前は知っておいてほしいと思う。万一体調が悪くなった時、原因の可能性として他の病院に受診をした際には必ず聞かれることであるし、なにせ自分の体に入れるものなのだから。
薬の名前は難しいので、記憶できなくても仕方がない。いつも持ち歩く手帳かスマホにメモをしておくと良いだろう。私もメモ帳にいっぱい書いてあり、覚えきれないものは見直して確認している。
相談の中で今後の就労や治療費を考えていく場合には、どのような抗がん剤を使って治療しているのかという情報は必要となる。だから私は、患者の今後の治療スケジュールを把握している医療者が、できる限り相談に同席してくださるようお願いしている。