お金の切れ目が命の切れ目

9月に入り、70歳以上の方のお金の相談が増えている。
というのも、8月から70歳以上の高額療養費制度の自己負担限度額に変更があり、一定の収入がある方の1ヶ月の医療費負担が、人によっては13,600円もアップしたからである。

 

一定の収入があるということは、裕福な高齢者だろうと思われるかもしれない。しかし、基準になっている金額は、生活に十分な額とは言えない年収約156万円以上、余裕があるとまでは言えない年収約370万円以上である。

そしてなによりがん患者を、高額療養費制度の問題は、自己負担限度額を判断される収入が、現在の収入ではなく、昨年もしくは一昨年の収入となっていることである。

70歳以上の方ががんに罹患し、昨年と同様の収入を得ているケースは滅多にない。体調や体力的に厳しく、仕事を辞めてしまう方、仕事量を最低限に減らす方がほとんどであり、収入は老齢年金だけになってしまっている。
現在の収入で判断されるなら、医療費の自己負担限度額はもっと少なくて済むのに。ここが、がん患者を悩ませる高額療養費制度の大きな問題でもある。

先日、相談に来られた70歳代前半の男性は、これまで生活費を得るために自営業を続けてこられたが、がん罹患により体調を崩し、この春、仕事から完全に離れられたとのことだった。
月々10万円ほどの年金収入で、通院で治療中のこの男性の8月からの医療費は毎月57,600円。自営業者が加入する国民健康保険では、いくら収入が下がったとしても、来年の7月まで医療費の負担額が変更されることはない。
これでは生活ができないと嘆いておられ、財産や保険、家族や家計状況も伺って考えてみたが、私もこの男性を安心、納得させられるような良案を出すことができなかった。

福祉制度はあるとはいえ、「お金の切れ目が命の切れ目、だね」とおっしゃった一言が忘れられない。

健康保険に備わっている高額療養費制度のおかげで、がん患者が安心して治療を継続できているという現実も間違いない。しかし、がん患者の相談を受けていると、がん患者がぶち当たるこの制度の問題点も感じる。

70歳を超える年齢で、がん治療をしながら働いて収入を得続けることは厳しい。制度を変えていくことは難しい。
患者が安心して治療を続けていけるために、何か良い手立てはないだろうか。