相手にかける言葉

大切な仲間ががんになった時、誰もが持つであろう、相手をできる限りサポートしたいという思い。それを表現する言葉の使い方には、配慮した方がいいこともある。

例えば、励まそうと思ってかける「頑張って」という言葉は、好ましくないと思われる。

相手がもう十分に頑張っている時に、これ以上の頑張りを求めるようなことは、「頑張って」がNGのシチュエーションとしてよくあるだろう。がん患者に対し「頑張って」が好ましくないと思われる理由は、それだけではない。がんの治療は自分ではどうしようもないことで、頑張って治るものではないことだからである。「頑張って」という言葉が、更にもどかしさや悔しさを感じさせてしまう可能性がある。

相手にかける言葉というと、思い出すご夫婦がいる。

「主人の治療費を稼がないといけないのに、私はあと数ヶ月で退職しなければならなくなってしまって…主人に申し訳なくて。その後の治療費に生活費、どうしたらいいでしょう?」
という奥さんの言葉が、相談のはじまりだった。

相談としては、ご主人の傷病手当金から失業給付、もしくは傷病手当金から障害年金、平行して奥さんの失業給付、その後ご主人および奥さんの老齢年金と、公的制度をうまく利用することで、収入が途絶える時期がないという見通しを立てられると、FPの知識を使ってアドバイスをしたところ、ご夫婦は安心されたようだった。

相談の前と後で、奥さんの言葉は変化した。相談前に「退職することが申し訳ない」とおっしゃっていた奥さんが、相談後には「毎日、夫のそばで過ごせる日が来ることが嬉しい」とおっしゃった。

奥さんが退職することに変わりはなくても、相談によって、おっしゃる言葉の変化が生まれた。そして、その奥さんの言葉の変化は、私に分かるほど、隣で聴いていたご主人の表情を明るく変えた。

奥さんの言葉はどちらも、がんで闘病しているご主人を想い、自分ができるサポートしたい一心から出たものに間違いはない。でもきっとご主人は、奥さんに「申し訳ない」と言われることが辛かったんだろうと思う。サポートする側がかける言葉の重要さに、改めて気づかされた。そして私がご相談をお受けした意義は、ご夫婦お互いの気持ちを楽にし、言葉を引き出すところにあったんだと感じた。

もし、大切な仲間ががんになった時には、そばにいること、辛さも喜びも一緒に感じたいこと、自分を頼ってほしいこと、自分にとって必要な存在であること…を、言葉で伝えてほしい。がんになった方への励ましは、相手を奮い立たせることではなく、相手を包むことであると、私は思っている。

 

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がんライフアドバイザー® 川崎由華