選択できますか?

一日のうちに人は約9,000回の選択をしている、と聞いたことがある。

9,000回という数に驚き、どんな選択があるのかと考えてみたが、きっと選択のほとんどが無意識に近いことなのだろう。

今、こうやって次の文章をどう書くかというのも、句読点をどこに入れるか考えていることも、選択という意識はないが、実はこれも選択していることになる。

 

「患者の立場が、こんなに選択、選択の連続なんて思ってなかった」とおっしゃった方がいた。

というのも、ご自身は医師であり、がんだと診断がつけば、ベルトコンベヤーに乗せられているように決まった検査、そして検査結果に合わせたがん治療が進んでいくという感覚を持っておられた。しかし、自分が患者になり、どこの病院でどの先生のどんな治療をいつから受けるか、次から次へ様々な選択に迫られることに気づいたそうだ。

 

先日、どうしても主治医が提案する治療は受けたくない、という方の相談を受けた。

主治医は、病状から考えて今は治療を最優先にすべきで、入院での治療を勧めておられたが、その方は通院での治療を希望され、なかなか治療方針が決まらない。

ゆっくり話を伺ってみると、その方には切り盛りしている自営業があり、確かに経営の事情から見ても、仕事を休むことになる入院が失業を招きかねない状況だった。命を懸けてでも仕事を続けていきたい、がんが治っても失業していたら意味がない、そんな想いを受け取った。

 

がんを治すための最善の治療を選択せず、常に仕事が続けられる形の治療が、自分にとって最善の治療だという選択をされたことは、簡単ではなかっただろう。それに、その選択を受け入れる家族も勇気がいったことだろう。

 

医療者も専門家も、患者の意思決定を支えることに全力を尽くすけれど、どんな状況におかれても選択するのは自分自身である。

がんの告知に心が動揺している時に、命もかかっているような選択をたくさんしなければいけないという現実を踏まえ、いつか来るだろうその時に備えて、健康なうちから選択のための情報、そして自分の考えを持っておく必要があるのではないだろうか。

大切にしているもの、守りたいものが何かということを自分の中で明確にしておくことで、選ぶ病院や治療法、周りとのコミュニケーションの取り方など、見えてくる選択があると思う。

 

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華