加入している保険を知るということ

先日、ある企業の社員の方々に向け、がんに備えるお金についてお話させていただく機会があった。がん検診の啓発に取り組む企業の社員として、がんについての知識を持っておきたいと、勉強の場を作っておられるという。その中で、自身ががんになった時のため保険の加入の仕方への質問が相次いだそうで、私に講師依頼をしてくださった。

 

がんとお金の問題は、厳密に言うと、がん治療が始まる前から起こってくる。

がんだと診断するための検査を受ける時点から、普段であれば必要でなかった医療費の支出が増え始め、これまで上手く取れていた家計収支のバランスが少し狂い始める。がん治療が始まると、治療そのものにかかるお金に加え、入院準備のお金や通院の交通費なども必要となり、支出が一気に増えるだけでなく、治療で仕事を休むことが収入減に繋がってしまう。家計収支はこれまで通りにはいかず、何の対策も取っていなければ家計崩壊に向かっていくことは、誰もが想像できるだろう。

 

依頼くださった企業の社員の方からは「がん保険に入ってないから不安」「どう保険に入っておいたらいいのか分からない」という声が挙がっていて、「民間の保険に加入していない=対策が取れていない」という意識でいらっしゃるようだった。

 

「民間の保険に加入していない=対策が取れていない」と考える方が多いが、実は、私たちは保険に加入し、知らず知らずのうちに対策を取っている。

保険と聞くと、医療保険やがん保険など広告を目にする民間の保険が頭に浮かぶだろうが、健康保険や年金保険、介護保険、雇用保険といった公的な保険に加入している。会社員であれば、これらの保険料は給与から天引きされているため、保険に加入している意識がないかもしれない。これらの公的な保険は、がんになった時のお金の対策になっている。

 

この企業の社員の方は、健康保険から1ヶ月の医療費の自己負担額が25,000円になるよう付加給付を受けられるし、仕事を休んだ際には健康保険から給与の80%の金額が受け取れるようになっていた。これほど有能な保険も心強い対策も、なかなか他にはないだろう。しかし、社員の方々はご存知なかったようだった。

民間の保険は、公的な保険でも貯蓄でも補えない部分の対策と捉えるとよい。

 

先日も、ある医療機関からお声かけいただき、先月から抗がん剤治療が始まったが、15万円ほどの支出に今後のお金が不安に思うとおっしゃる患者の相談をお受けした。

加入されている健康保険を確認すると、付加給付により1ヶ月の医療費の自己負担額は30,000円でよいと分かった。健康保険からは医療機関の窓口での支払いから数ヶ月遅れて給付されるため、先に支払いは必要となる。

 

30年近く同じ健康保険に加入されてきたが、これまで大きな病気をされたこともなく、健康保険で受けられる保障に目を向けたことがなかったとのこと。これをきっかけに、自分が働いてきた職場環境や福利厚生の良さに気づき、定年退職まで働ききる就労意欲が湧いてきたと笑顔でおっしゃった。同席されていた奥様も喜んでおられた。がん治療と就労の両立、家族関係の良好にも繋がった事例であった。

 

加入している保険の確認は、がんとお金の問題の解消だけでなく、自分が今置かれている環境への感謝、今後の目標に繋がることもある。

 

 

 

がんライフアドバイザー® 川崎由華